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「あなたったら、昔から母親の私よりもヒロの方に甘えてたじゃない?」
「それは、お母さんはいつも忙しかったし……」
「そうね、私のせいよね……」
母は少し寂しげに微笑んで、私の肩をそっと引き寄せた。
「私のせいであなたには寂しい思いをさせて、申し訳なかったと思ってるわ」
「お母さん……」
「私がそうしたくてもしてあげられなかった分の何倍も、ヒロはあなたのことを可愛がってくれた。それはあなたのことを本当に愛しているからよ。それは分かってあげてね」
「うん…分かってるよ……」
「そう……でもほんと、仕方のない人ね、あなたのパパは」
ゆっくりと吐きだす息と共に、母が半分笑いながらそう言った。
「溺愛する娘に彼氏が出来たことがショックで、あんな態度をとってしまうなんて。もう、いくつになっても大人になりきれない、というか…ふふふっ」
「えっ!」
「ヒロのこと許してあげて?娘の初恋をもらったんだからあとは我慢しないと、ってお母さんがしっかり言い聞かせておくから」
「お、お母さん…知って!?」
母の言葉に弾かれたように顔をあげる。母に初恋のことは話したことはなかった。子ども心にも何となく言いづらかったせいもあるし、それを知った母が気にするのも嫌だったから。
すると母は、鼻を「ふんっ」と鳴らして、人差し指と親指で私の鼻を弾いた。
「これでも杏奈の母親、ですからね」
そう言って、ニヤリとからかうような笑みを浮かべる。
「さあ、今頃ヤキモキした男どもがあなたの帰りを待ってるわよ。おモテになって羨ましいですこと」
「もう…お母さんっ!」
背中に回された母の手に励まされて、私はベンチから腰を上げた。
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