6070人が本棚に入れています
本棚に追加
/271ページ
「俺からもお願いします。杏奈さんのこと、真剣に考えています。大事にしますので、どうかお付き合いをお許しください」
私の隣で修平さんも頭を下げる。二人で黙って頭を下げ続けた。
「もういい……」
テーブルの向こうから父の低い声が聞こえる。
やっぱり認めてもらえないんだ……。
そう思ったらじんわりと涙が浮かんできた。
「二人の言いたいことは分かった。顔をあげなさい」
言われた通りに顔をあげると、困ったような、でも優しく見守るような瞳とぶつかる。
「杏奈はいつまでも小さなままじゃないんだよな……。いつまでも俺の手の中にいてほしかったけど、そういうわけにはいかないということは、どこかで分かっていた気がする……」
「ヒロ君……」
「瀧沢さん…いや、修平くん」
「はい」
父は修平さんの目をしっかりと見つめて、一呼吸置いてから口を開いた。
「杏奈のこと、よろしく頼みます」
そう言って頭を下げた。
「ありがとうございます」
修平さんも頭を下げ返す。
頭を上げた父が一言、「泣かせたら、絶対許さんけどな」と低い声で付け足したので、隣の母が大笑いした。
最初のコメントを投稿しよう!