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修平さんが言うように、リビングのソファーの端に私のカバンが置いてあった。
急いでカバンのところに行き、中から目当ての綺麗な封筒を取り出す。その中から二枚の紙を引き抜いた。
「これ!」
「それって……」
私は手に持っているそれらの紙を、修平さんに差し出した。
「『映画 十六夜夢奇譚 公開記念舞台挨拶 招待券』――これって!」
「そう!『橘ゆかり』原作のあの映画の舞台挨拶だよ」
「すごい!!どうしたの?これ」
「昨日帰り際に母がくれたの。良かったら修平さんと、って」
「由香梨さんが…そうか、出版関係のお仕事だもんな。ありがたく行かせてもらうよ。楽しみだ!」
「喜んでもらえて良かった。母にも伝えておくね」
「ああ、よろしく。俺も次にお会いした時にはきちんとお礼を伝えるよ」
「うん」
映画の原作の話でひとしきり盛り上がった後は、私は朝食準備、修平さんはシャワーを浴びて出社準備をこなし、一緒に朝食を食べたりしているうちに彼の出勤時間になった。いつものように玄関までアンジュと見送りをする。
「いってらっしゃい」
「行ってくるね、杏奈、アンジュ」
修平さんはアンジュの頭を撫でた後、その手で私の腰をグッと引いた。そして、私の唇を長めに啄ばむ。
思いが通じて恋人になって初めてのお見送り。
それまでは私にもアンジュと同じように頭を撫でるだけだったのに、今回からは『恋人仕様』になったことにまたしても心臓が忙しくなる。と同時に甘い空気に胸が高鳴った。
合わせた唇を名残惜しそうに離した修平さんが
「今夜は早く帰ってくるから。覚悟しといて、杏奈」
と、言い残して仕事へと向かった。
「覚悟って……」
その意味が徐々に分かってくると、頭が爆発しそうになった。閉じたドアの向こうに彼は居ないと分かっているのに、いつまでもドアの方を見つめて、動けなかった。
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