14. あなたに伝えたいこと。

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[2]  四月の最終土曜日。待ちに待ったその日がやってきた。  春の大型連休の初日となる今日、舞台挨拶付きの映画の上映は、午後七時からとなっている。  修平さんは、目下九連休中。祝日に挟まれている平日に有給休暇を入れたからだ。  それとは逆に私は繁忙期。連休中の図書館は訪れる人も多く、祝日にちなんだ催しも沢山入っているのだ。  連日出勤する私の為に、アンジュの散歩や食事の準備など、家事の全般を修平さんが受け持ってくれることになっていた。    いつもより早く仕事に出た私は、朝一番から休憩もそこそこに、フル回転で業務をこなし続けた。  今日の予定を知っている千紗子さんが、就業時間ピッタリでタイミングよく声を掛けてくれたので、残業なしで上がることが出来たけど、残っている早番メンバーには申し訳ない気持ちになってしまう。  『この恩は明日からの働きでお返しします!』と心の中で謝って、ダッシュで休憩室に向かい、持ってきていた服に着替え手早く化粧と髪型を直した。  図書館の職員専用口を飛び出すように出ると、そこには見慣れた黒い車が。  小走りで駆け寄ると、運転席から修平さんが降りてきた。  「お疲れ、杏奈」  「お待たせしてごめんね。迎えに来てくれてありがとう」  修平さんは私が持っている荷物をさりげなく受け取って、助手席を開けてくれる。  「本当は図書館に入って杏奈の働く姿を見ていたかったんだけど、杏奈が緊張してまた階段から落ちたら困るからやめておいたよ」  「もっ、もう落ちないよっ!」  彼は「あははっ」と笑って、助手席のドアをそっと閉めた。
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