14. あなたに伝えたいこと。

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***  映画は大盛況のうちに幕を閉じた。  原作が小説の場合、読んだ時に受けるイメージと役者が違ったり、演出上が作者の表現と違ってしまったりすることが多い。そうなると、小説のファンにとっては残念な映画になってしまうことがほとんどなのだけど、今回の映画は本当に良かった。  読んだ時に頭の中に広がる世界が、より具体的に映像になって進んでいく。ストーリーが進むにつれてまるでスクリーンの中で自分が体験しているみたいに映像に引き込まれていき、お話の流れや最後を知っている私でも、存分にドキドキハラハラしたり、感動したりすることができた。  この映画は、『橘ゆかり』ワールドを見事に映像化した素晴らしい作品になっていた。  「お…面白かったぁ…!」  エンディングロールを観ながら思わず感想が口から漏れると、隣の修平さんも、「すごかったね。期待以上の映画だったよ」と詰めていた息を吐きだすような声で言った。  エンディングロールが終わり、画面が真っ暗になるとすぐに、舞台上をスポットライトが照らしだした。  裾から主演の俳優や、メインとなる役者さんがぞろぞろと出てきた。作中では和服だった役者さんたちが、スーツやドレスを着ているのが返って新鮮に見える。でも、いちばん最後に出てきた人だけは着物姿だ。  髪を結いあげ薄紫の着物を悠然と着こなしたその人は、舞台中央付近で足を止めた時、こちらを見てかすかに微笑んだ。  「あれ…着物の女性、どこかで見たことが…」  隣の修平さんが小さな声で呟いた。
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