14. あなたに伝えたいこと。

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 修平さんが顔を赤らめることも珍しいけれど、こんなに動揺する姿なんて初めて見る。  それでも彼は、すぐに立ち上がって母の方に両手を差し出した。  「この度はご招待ありがとうございます!俺、ずっと橘ゆかり先生のファンなんです。今回の映画とても素晴らしかったです。またシリーズを読み直したくなりました。今月出た新作も拝読いたしました。続きが楽しみで仕方ありませんっ!」  母の手を両手で包むように握手をしながら、修平さんが勢いよく喋り出した。  彼に手を取られた母は、少し面食らっている。  修平さんに母が『橘ゆかり』だと話していなかったのと同様に、母にも彼が『橘ゆかり』の大ファンであることを話していなかったのだ。  私の両親に偶然出会ってしまった時も、落ち着いた態度を取っていたのに(父に食って掛かったのは別だけど)、『橘ゆかり』に見せるその姿に、私の胸にモヤモヤが広がっていく。  彼の顔が私には見せたことのない顔になっていて、いつもはときめくはずの彼の笑顔が、黒く塗りつぶされていく感じがした。  「おいっ、いつまで握ってるんだよ」    母の後ろに立つ父が、修平さんの手を少し乱暴に掴む。  「あっ……」  頬を赤くした修平さんが、握手していた手を離した。少し照れくさそうに、「すみません…」と俯く。  「取り乱してしまってすみません。杏奈さんのお母さんが、まさかずっと好きだった作家さんだとは思いもしなかったので」  「俺の嫁を口説くな」  「い、いや…由香梨さんを好きというわけでは、…俺が好きなのは『橘ゆかり先生』で……」  「まあ別にいいけど……、そろそろ杏がキレそうだぞ」  「えっ?」  父の台詞に、修平さんが隣を見下ろす。  「杏奈?」  彼の視線を感じているけれど、そちらを見る気にはなれない。
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