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「杏奈」
呼びかけに答えようともせずむっつりと黙ったままの私を、修平さんがもう一度呼んだ。
両親が苦笑を浮かべて見守っているのが視界に映るけど、それすらもなんだか癇に障る。
「杏奈、修平さん、私は制作チームやスタッフの方々にもう一度ご挨拶をしないといけないの。とりあえず今日のところはここまででいいかしら?もっとゆっくり話をしたかったのだけど、それはまたの機会に。杏奈、出来たら早いうちに一度顔を見せに帰ってきなさい、修平さんと一緒にね。修平さん、この子を宜しくお願いしますね」
しっかりと『母親』になってそう言うと、母は私たち二人を控室から追い出した。父はこの後、母を車で連れて帰るとその場に残った。
「それでは、失礼します」
修平さんが控室のドアを閉める。私は相変わらず無言のままだ。
「……杏奈?」
「…………」
彼の呼びかけに無言のままでいる。イライラは大分収まっているけれど、なんとなく気分を戻すことが出来ずにいる自分が嫌になった。
「お腹空いてない?杏奈」
そう訊かれた途端、黙ったままの私の口の代わりみたいに、お腹が「ぐ~~っ」と大きな音で返事をした。
「っ、………くくくっ、」
修平さんが「堪えきれない」とばかりに、笑っている。
「~~~~っ!!」
自分のお腹の正直さに腹が立つけど、恥ずかしすぎて赤くなる。
だって、仕事の昼休憩も軽くつまんだだけだったんだもんっ!!
今はもう午後十時になろうとしている。
定時きっかりで図書館を出る為に、今日一日いつもの何倍も動き回った上に、昼ご飯も軽く済ませた。それから何も食べてない私のお腹は、すっかり空っぽなのだ。
「ご飯、食べに行こうか」
修平さんはそう言って、私の頭の後ろをポンポンと軽く叩いた。
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