4. 恩返しさせてください!

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4. 恩返しさせてください!

[1]  ―――遠くで誰かが泣いている。  ああ、違う。これは夢。    私は四歳とか五歳とか、保育園に通っていたくらいの頃、よく一人で泣いていた。  多分寂しかったんだと思う。  母は毎日仕事に忙しくて、家にいる時も私にかまってくれない時も多かったから。  まだ自分の気持ちや状況をうまく口で説明することが出来なかったあの頃、ちょっとのことですぐに泣いた。  それも、小学生になって徐々に落ち着いたんだけど。  そんな幼い時の記憶を、大きくなって夢に見ることが今だにある。  大抵心身共に疲れていたり、不安なことがあったり、とにかく精神的に抱えきれないことがあると度々見る夢だった。  大人になってからはその夢を、夢の中で「ああ、またこの夢か」と客観的に見れるようになって、泣いている幼い自分を第三者の目で眺めるようになっていた。  この夢はいつも変わらず決まったところで終わる。    「大丈夫だよ」そう言って差しのべられた大きくて温かい手。  母のそれよりもごつごつして長い指をそっと掴んで、ホッとしたところで。  
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