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泡で満たされている広い浴槽に、足を曲げて浸かっている。
目の前のガラスの向こうには街の夜景が一面に広がっていて、明かりをつけていないはずなのに、バスルームの中は十分な照度があった。
「こ、これじゃ…意味ないよ……」
「そう?なら電気点ける?」
「だめっ!」
後ろで「くくくっ」と笑った修平さんが肩を震わせると、泡がゆらゆらと揺れる。
腰に回された手からダイレクトにその震えが伝わって、私はますます身を縮めた。
「バスボムがあるから見えないでしょ?」
「ふにゃっ!」
耳元に彼の吐息がかかって、反射的に出た声が浴室に響く。それがまた私の羞恥心を煽った。
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ルームサービスが並べられたテーブルに着席してすぐ、私は修平さんに母のことを話した。
料理に手を付ける前に、彼に頭を下げて謝る。
「ごめんなさい…母のこと、ずっと黙ってて……」
「ものすごくびっくりしたけど、怒ってはないよ。ずっと大ファンだった人に会えて嬉しい方が大きいかな」
「そう言ってもらえてちょっとホッとしたよ……ずっと言わなきゃ、って思ってたんだけど、タイミングが掴めなくって……結局最後まで言えなかったのが気になってはいたのだけど……」
「そっか、気にしてたんだね。俺なら大丈夫だから、もう気にしないで?でも俺に言いづらかったのはなんで?驚かせたかったから?」
「ううん、そういうんじゃないの……」
「俺には言いにくいこと?」
私は頭を左右に振った。
「食事しながらでいいから、聞いてくれる?」
「もちろん」
私はゆっくりと昔の話を彼に話し始めた。
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