14. あなたに伝えたいこと。

22/27

6071人が本棚に入れています
本棚に追加
/271ページ
 私の中で母が物書きなのは『当たり前』のことだった。  母は私が生まれる前には作家デビューしていたし、私を産んですぐ有名な賞も貰っていた。『物書き』としてやっと独り立ち出来た頃だったのだと思う。  私の一番古い記憶は、母が机に向かって執筆している後姿だった。    「橘ゆかりは彼女がまだ大学在学中にデビューしたって、プロフィールに書いてあったのを見たことあるよ」  そう言ってくれた修平さんに頷いてから、私にとって『母=作家』なのは、他の子のお母さんが専業主婦をしていたり、会社に勤めたりしているのと同じ感覚だったと話す。当たり前のことだから、特別言って回ることでもないけれど、別に隠すことでもない。  そうして小学三年生の時、母が再婚して父が出来た。  ヒロ君は初めて会った時には『喫茶店のお兄さん』で、それが当たり前のまま父になって。  両親とも別々に自営業を営んでいる家庭が珍しいということすら、当時の自分には分からなかった。  母は作家、父は喫茶店店主、それが当たり前の日常だったのだ。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6071人が本棚に入れています
本棚に追加