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「それはそうだろうね。子どもにとったらそれが普通の感覚だと思うよ」
そう返してくれた修平さんに、私は眉を下げて微笑んだ。苦々しい気持ちが、記憶の片隅から滲み出しきたのだ。
なかなか話の続きを口にしない私に、彼は「嫌なことなら言わなくてもいいんだよ?」と言う。
彼の瞳には私への心配が滲み出ていて、私の心の中がほわんと温かくなった。
「ううん、大丈夫」
彼を見つめて小さく頷いてから、続きを話しだした。
「中学校に入ってから、何かのきっかけで両親のことが周りに広まったの。小学校の時は、周りのお友達で知ってる子もいたんだけど、特にそのことで何か言われたりしたことが無かった。だけど中学校では……」
「周りが過剰反応した?」
「……うん。そういうことに…なるかな。たぶん母の小説がドラマ化したこともあって……。中学に上がったばかりの頃、母のことを知らなかった子達の間で、びっくりするほど盛り上がっちゃったみたい……。私に母のサインを頼まれたりしたの。でも、そのころの母は寝る間もないくらいに忙しくて、娘の私とも顔を合わせないくらい籠って執筆しているのがほとんどだったんだ……」
「すごい人気になってたもんな、橘先生」
「うん。……だから本当に申し訳ないんだけど、『母は今忙しすぎるから、サインはもらえません』って何人かにお断りしたんだ。そしたら……」
「逆恨みされた?」
「………うん」
「酷いな」
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