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修平さんの顔が怒っている。いつも穏やかな彼にそんな顔をさせてしまって申し訳ない。
「でもそれだけじゃなくて……。ヒロ君が……父親にしては若いから、その辺も一部の人たちの癇に障ったみたいで……」
「意味が分からない。そんなの他人には関係のないことじゃないか」
「そうだね……、でもその子達には私が何でも持ってる嫌味な子に見えたみたい。色々と嫌なこと言われたりちょっとしたイタズラみたいなことをされるようになって……」
「それって、完全ないじめじゃないか!?」
「……だよね。私も最初のうちは気にしないようにしていたんだけど、だんだん辛くなってきて、それをヒロ君に気付かれて問いただされちゃったの」
「隆弘さんはなんて?」
「泣いてる私を抱きしめて、『杏奈は何も心配するな』って言ってくれた。母には『ごめんね』って泣かれちゃって、それが一番辛かったかも。お母さんは何も悪くないのに。でも父が泣いてる私とお母さんを両手に抱えて、『由香梨さんと杏奈を守るのは俺の役目だ』って……。次の日には学校に乗り込んでくれて。それからは、先生が間に入ってトントン拍子に進んで、相手の子達に謝られて何事もなかったように元に戻ったよ」
「何事も無かったように、ってわけにはいかないだろ?辛い思いをした方がすぐに日常に戻れるなんて、そんなはずない。」
修平さんがまだ怒っていることが、その低い声で分かる。
私は少し微笑んだ。
「うん、確かにそう。だけど、ずっと引きずっているよりも、無理やり『普通』のふりしてでも、早く穏やかな日常に戻りたかったのが正直な気持ちだったから……」
「そうか…、杏奈はやっぱり強いな」
「そんなことないよ」
「いや、そうだよ。杏奈は芯が強い」
「ありがとう、修平さん……」
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