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「きゃあっ!」
反射的に彼の首にしがみ付く。彼は私を抱いたまま、器用にシャワーで体の泡を流してから、バスタオルを私の体に乗せて、バスルームを出た。
私の動揺なんて予測済みの彼は、抱き上げた私が腕の中でジタバタしても意に介さずに、涼しい顔でベッドルームまでやってきた。
私をベッドに下ろすと同時に彼がのしかかってくる。その圧迫感に一瞬息を詰めた。
私を真上から見下ろす彼の瞳が甘く切ない。『今すぐ欲しい』と訴えるような切羽詰った瞳に、心が揺さぶられる。
「ごめん…今日は優しく出来ないかも……」
切なそうに目を細めた彼に、胸がキュッと絞られる。
「余裕なくて、かっこ悪いな、俺」
苦いものを噛んだような顔をした彼の頬に、指先でそっと触れた。
「……そんなことない。修平さんはいつでも素敵だよ」
「杏奈……」
「いっつも私のことばっかり考えて我慢してくれて……そんな優しい修平さんのことが好き。でも……今日は我慢しないで…?私、もう大丈夫だから……」
「杏奈、」
濡れたように光る彼の瞳が、一瞬揺らめいた。
「愛してる」
そう囁いてからすぐに私の唇を塞いだ彼の、優しい愛情に私は身を委ねる。
その夜、地上の星の瞬きに見入る間もなく、彼の愛執に幾度も昇りつめた私が気を失うように眠りについたのは、夜の街が眠りにつくのと同じころだった。
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