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瀧沢さんの部屋に戻ってすぐ、彼に薬を飲ませようと何度か声を掛けたけれど、痛みで朦朧としているのか彼は目を開けようとしない。
「どうしよう……」
辛そうに横たわっている彼を目にしながら、何もできない自分が歯がゆくてたまらない。
瀧沢さんは整形外科で痛み止めの注射を打ってもらった、と話していた。
あれから何時間も経っているから、きっと痛み止めの効果が切れたんだと思う。
どうしたら彼に薬を飲んでもらえるか、ベッドサイドに膝をついて考えた。
瀧沢さんに起き上がって貰わないと、薬とお水を口に当てることも出来ない。
「だ、ダメ…!考えてるだけじゃ少しも良くならない!」
揺らぎそうになる気持ちを押し込めるように、胸の前で両手をギュッと握った。
バクバク、と胸の鳴る音が頭の中にまで響いてくる。
息をグッと詰めて、胸の前で組んでいた手をほどき、寝ている彼へと一歩近づいた。
ベッドに片膝をついた。ミシッ、と音を立てたベッドに体がビクッと跳ねる。
やましいことをしようとしてるんではないんです…!
心の中で懸命に弁解する。
「た、瀧沢さん…お薬飲みましょう。起こしますね」
そっと彼に声を掛けたけれど、眉間にしわを寄せたまま固くつむった目は開くことはない。
時折「うぅっ…」と辛そうに唸る以外には体を動かすことすらない。
私は意を決して、寝ている彼の背中に腕を差し込んだ。
思ったよりも彼の体は熱く、もしかしたら炎症のせいで熱を出しているのかも、と気付いた。
これまでの人生の中で、身内以外の男性にこんな風にしっかりと触れるのは初めてで、ドキドキするし顔も体も火照ったように熱い。
でも、瀧沢さんの熱に気付いてから、私の中の何かのスイッチが切り替わったように冷静になった。
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