2. 今日の運勢は最下位です。

2/13
前へ
/271ページ
次へ
 私は一人っ子で、両親は心配と寂しさからかすぐには賛成してくれなかった。  でも最終的には二人とも私の自立に納得してくれて、母は「自分が決めたことならしっかりやってみなさい」と背中を押してくれ、父はちょっと涙目になりながら「何かあったらすぐに帰っておいで」と優しく送り出してくれた。  我が家の父と母はよそのうちとは正反対っぽくて変わってるな~、なんてのんきに思いながら、笑って「行ってきます」と言って実家を出た。  一人暮らしを一年以上やってると、家の中での独り言はすっかり当たり前になってしまう。  「犬か猫でも飼えたらいいんだけどなぁ」  同じ返事が返ってこない状況でも、温かい小さな生き物が同じ部屋にいればずいぶんと癒されるだろうなぁ、と思いながら最後のパンを急いでコーヒーと流し込んだ。  残念ながら今の安月給ではペット可の物件には引っ越せないし、万一お金があったとしても今は自分一人の世話で精いっぱいだな~、と自分の余裕のなさにしょんぼりする。  そんなことをのんきに考えていたら、テレビの中は天気予報から最後の星座占いに変わっていた。  「やだっ!もうこんな時間!」  星座占いを見ながらバタバタと食器を下げ、洗面台に行き身支度をする。  リビングに付けたままにしているテレビでは、女性アナウンサーの涼やかな声が各星座の運勢を告げていた。    鏡に映る見慣れた自分の平凡な顔を見ながら、耳だけはリビングから聞こえる星座占いにそばだてる。  いつもの薄いお化粧をさっと済ませて、肩の下まで伸ばした髪を束ねようとブラシを手に取った、その時。    『今日の最下位は、ごめんなさい、ふたご座のあなた。思わぬハプニングに困らされそうです。ラッキーアイテムは時代小説です。ではみなさん、今日も一日頑張りましょう~』  思わず、ブラシを持ったまま固まった。  だってもうすでに朝からプチハプニングを二連続で食らってる。  しかもラッキーアイテムは私の大好きな時代小説……。  「いやいや、ただの占いだし……ね?」  なんとなく気にはなったけれど、時間に追われていたので急いで身支度を済ませて家を後にした。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6125人が本棚に入れています
本棚に追加