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ダイニングテーブルの向かい側に座っている彼女の体が、小刻みに震えている。
今すぐその震える肩を抱き締めて撫でてあげたい。そんな衝動にかられたけれど、松葉杖を使わなければ歩くことすらままならないことを思い出して、グッと踏みとどまった。
そもそも、自分と彼女はそういう間柄ではない。
だけど、肩を抱いて落ち着かせることは出来なくても、何があったのか聞くくらいなら出来る。
「管理人さんは何て言っていた?もし大丈夫なら話してみて」
やんわりそう聞いてみると
「わ、私の部屋は2階の角部屋で、隣にあったお家が火事になって…お隣から出た火が私の部屋まで届きそうで、外壁が大分焦げたし、消火の水で部屋も濡れてるらしくて……」
彼女は震える声で、まだまとまらないであろう管理人さんからの情報を、少しずつ話してくれた。
彼女のアパートは燃えてはいないけれど、隣家の火災で外壁が焦げて、あともらい火をしないように消防の放水もあったようで、隣家に隣接していた彼女の部屋は、多分とてもじゃないけれど今日帰れるような状態ではない、ということを管理人さんから伝えられたようだった。
彼女は一度鼻をすすってから慌てて鞄を引っ掴んで、おもむろに立ち上がった。
「す、すみません。私、長居しすぎました……」
涙目のまま、ペコリと頭を下げて玄関の方へ向かおうとした彼女を咄嗟に止めようと思った。
つられて勢いよく立ち上がると、左足がズキリと痛んだ。
くそっ…!この足が邪魔くさい!!
胸の内で自身の足に悪態をつくと同時に「アン!」と叫んだ。
「え!?」
そう言ってびっくりしたように立ち止まって振り向いた彼女の前に、サッとアンジュが回り込んだ。
アンジュは俺の意図を汲んでくれたようで、彼女の行く手を塞ぐように体を彼女の前にピッタリとつけている。
俺は松葉杖を付きながら、ゆっくりと彼女の方に近づいた。
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