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ゆうべのやり取りを思い返しながら、サラサラとした彼女の髪を撫でる手を止めることが出来ない。
アンジュの手触りに良く似てるな、と思って口元が自然と弧を描く。
寝ぼけた頭が段々とはっきりすると共に、自分の状況を把握し始めた。
捻挫した足首には、すでにぬるくなった保冷剤がタオルで巻かれていた。
枕元にはハンドタオルが落ちていて、彼女の足元に水を張ったボウルが置いてある。
そうだ。夜中、足の痛みで目を覚ましたけれど、少しでも動かすと激しい痛みに襲われて、ベッドから動けずにいたんだ。痛みに耐えているうちに意識が遠くなっていったような気がする。
熱くなった額をひんやりとした何かが撫でていたような、そんな夢を見ていた。
あれは夢じゃなくて、彼女が汗を拭いてくれていたのか、と気付いた。
自分が少しでも触れると、彼女は毎回顔を赤くして動揺するのが伝わってくる。
きっと、異性との触れ合いに慣れていないんだろうな、と察せられた。
その彼女が自分から俺に近づいてくれたのが、なんだか嬉しい。
きっと、俺の世話をしながらそのまま寝てしまったのだろう姿に、心がポッと温かくなった。
ベッドに片頬を着けて気持ち良さそうに寝ている彼女の、その顔にかかる髪をそっと耳に掛けた。
「ん、ん~~」
くすぐったかったのか彼女は少し声を出しながら身じろぎをした。
ああ、これ以上眺めているのは良くないな。
そう思って、彼女の肩をトントン、と叩いた。
「んん……あ、……」
ゆっくりと瞼を開けた瞳の中に、俺の顔が写り込む。
綺麗だな、と無意識に顔を寄せたその瞬間。
「きゃ~~~~~!!!」
と叫びながら彼女は飛び上がるように体をのけ反らせて、そのまま後ろにドスンと尻もちをついた。
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