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どれだけ座り込んでいたのか。隣から何か訴える視線を感じてハッと我に返った。
隣を見ると、アンジュがジッと私を見つめている。
何かを訴えているような……
「そうだ、朝ご飯とアンジュの散歩!」
自分が何のためにこの家にいるのかを思い出して、慌てて瀧沢さんの部屋を後にした。
***
キッチンに入って、昨日教わった通りにアンジュの朝ご飯を準備する。
私がここに泊めて貰ったのはひとえに瀧沢さんのご厚意によるもの。
昨日から幾度となく彼には助けられている。
出会ったその日によく知りもしない私のことを家に泊めてくれるとは、彼はなんて優しい人なんだろう、と改めて感謝の気持ちが湧きあがった。
自分に出来ることは何でもして、彼のご恩に報いなければ!
そんなやる気に満ち溢れながら、冷蔵庫の前で握り拳を作る。
「―――冷蔵庫相手に喧嘩でもするの?」
後ろからニョキっと大きな手が伸びてきて、冷蔵庫のドアを開けた。
反射的に振り向くと、首からタオルをかけて髪から滴を垂らしたままの瀧沢さんがすぐ後ろにいた。
「――――!!!」
私が声にならない叫び声を上げると、彼は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出してからすぐ離れて行った。
壁に寄りかかりながら水を飲む彼の、髪がまだ濡れていて、朝陽に当たってキラキラと光っている。
スエットのパンツに長袖Tシャツというラフなスタイルなのに、袖を捲った腕とか、Vネックから見える鎖骨とか、得も言えぬ色気が漂っていてまともに見ることが出来ない。
ただでさえ、さっきの真後ろ事件で心臓がバクバクだし顔は赤いしで、なんとか落ち着かせようと冷蔵庫のドアを開けてみた。
冷蔵庫で頭も冷えたらいいのに……。
なんて思いながら冷蔵庫をざっと見る。男性の一人暮らしにしては、中身が充実していることに軽く驚いた。
「瀧沢さん。もし良ければ朝ご飯を軽く用意したいのですが、冷蔵庫の食材使ってもいいですか?」
なるべく直視しないように少し目線を逸らしながら瀧沢さんの方を向いてそう聞くと、
「ありがとう。あるものはなんでも使っていいよ。むしろ使ってもらえると腐らせなくて良くて助かるな」
そう言って貰えたので、冷蔵庫の中からすぐ使えそうな食材をいくつか取り出した。
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