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瀧沢さんをお待たせすること十分とちょっと。
トースト、ベーコンエッグ、付け添えのキュウリとトマト、コーヒー。
作った、と言うなんて烏滸がましいほど簡単な朝食をテーブルに並べて、二人で向かい合わせに座った。
「すみません、大したもの作れなくって……」
はっきり言って、料理もまだ修行中の身。
一人暮らしを始めるまで、生まれて二十二年間実家で暮らしていたせいか、あまり料理はしてこなかった。
母は忙しい上に料理に時間を割くタイプでは無かった。だけど幸いなことに父は料理が好きなタイプで、アレコレと美味しいものを作ってくれたりしたので、私は料理を覚える必要がなかったのだ。
でもこんなことなら実家にいるうちに習っておけば良かった、と後悔してしまう。
「いや、こんなに色々用意してくれてありがとう。自分一人の時の朝ご飯なんてパンとコーヒーくらいだし、何より、朝からこうやって会話をしながら食べれるなんて嬉しいよ」
瀧沢さんがそう言ってくれると、お世辞だと分かっていてもほんわりと嬉しくなる。
それからは、二人で朝食を食べながらこの後の予定の話になった。
「今日は土曜日で俺は仕事が休みだからいいけど、宮野さんは?図書館は土日も空いてるよね」
「はい……。今日は遅番なので朝は時間があるんですが、今後どうするかを管理人さんや不動産会社の方とお話ししたりしようと思っていて。アンジュさんのお散歩の後に、アパートに行こうと思います」
「そっか。一人で大丈夫?」
「大丈夫…です」
「色々大変なのに、アンジュの散歩を頼んじゃってごめんね。無理ならいいから」
「いえっ!アンジュさんのお散歩は私に是非させてください…!」
思わず前のめりになりつつそう訴えると、瀧沢さんは少し困ったように眉を下げて「ん~、」と少し考え込んでから「それなら…」と私にある提案をした。
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