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アパートの駐輪場から自分の自転車を出して乗る。
通勤は毎日自転車。渋滞もないし、十分くらいで着くので結構快適だ。
でも、雨の日はバス通勤に変更するので、毎朝の天気予報チェックは欠かせない。
帰りの時間帯が雨予報になっている時は、行きは徒歩で帰りはバスを使ったりもする。
今日は幸いなことに一日の降水確率0%。
自転車で風を切るにはまだ肌寒い四月だけど、この時期だけの楽しみがあった。
通勤経路にある河川敷は桜並木になっていて、今ちょうど満開なのだ。
私はその桜並木の下を自転車で通るのがとても好きで、それだけで毎朝の通勤の気分が上がる。
もう少しで散り始めるだろうから、出来るだけゆっくりと、なんなら自転車から降りて歩きながら通りたいくらいだけど、今日はもうその時間の余裕はなさそうだった。
自転車をぐんぐん漕いで河川敷まで出ると、そこにはずっと先まで続く桜並木。
「きれい………」
ほぼ毎日見ているはずの光景なのに、桜の咲き始めから少しずつ開いている花が増え、五分、六分、七分、と開花が増して行く毎に変化するこの並木道の美しさに毎回声を上げずにいられない。
今はもう通りの反対側から先まで薄く煙っているかのような桜色。
「見惚れてる場合じゃないんだったっ」
普段はゆっくりと進める自転車を急いで漕ぐために、右足にぐっと力を入れた。……その時。
『プスッ』
という音と共に、自転車がガタリと変に揺れた。
「え?ええ??なっ、なんなのっ!?」
慌てて自転車を止めてしゃがみこんで自転車を見ると、前輪がパンクしていた。
「なんで~~~~!!」
慌てて腕時計を見ると、出勤時刻まであと十五分と迫っている。
更衣室で制服に着替えたりする時間を入れると、自転車を飛ばしてもギリギリというところなのに…とパニックになった。
一人暮らしと同時に買った相棒を置き去りにすることも出来ず、どうしたら良いのかすら分からずに、自転車の横にしゃがみこんだまま半泣き状態になってしまった。
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