5. 大義名分いただきます。

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5. 大義名分いただきます。

[1]    「行ってきます」  「行ってらっしゃい」  玄関先で瀧沢さんに見送られながら、私は足早に門までのアプローチを歩き出した。右手にはしっかりとアンジュのリードを握って。  アンジュとの「初散歩」だ。  瀧沢さんに散歩の道順などを聞いてみたら、『コースはいつもアンジュが決めるから』とだけ言われた。  そして『時間に余裕が無い時は、適当なところで切り上げてUターンしていいよ』とも。  そんなアンジュは、ただ今私の右側をテクテクと歩いている。  引っ張ることなんて全然なくて、リードは緩い弧を描いてたわんだ状態のまま。  私にとって初めての場所であることを知っているみたいに、半歩先を先導するように進んでいく。  昨日、薄暗い中で見た時に「豪邸だらけだなあ」と思っていたけれど、こうやって明るい時間帯に見ると、予想以上の高級住宅街だった。  ただ大きなお宅というだけでなく、なんだか歴史を感じる佇まいのお屋敷が沢山並んでいる。    この住宅街はなだらかな斜面地に作られていて、私たちは今、瀧沢さんの家から坂を下る向きに進んでいた。
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