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どこからか小鳥の声が聞こえてくる。
私は朝の清々しい空気に、心の中の澱みが払われていくようだ。
途中で脇道に猫を発見したり、時折アンジュの知り合いのワンちゃんとその飼い主さんに出会ったり(向こうから「アンちゃんおはよう」と声を掛けられて、自分の事かと思って慌てて挨拶を返したり)しながら、アンジュと二人(?)で軽快に坂道を下って行った。
アンジュの足の向くに任せて道を下って行くと、急に住宅街が終わり目の前が開けた。
「こ、ここは…!」
住宅街を抜けたその先は河川敷だったのだ。
そう、いつも私が通勤している桜並木の河川敷。
いつもの桜並木を、今はちょうど対岸から見ている。
「こんな所に出るんだぁ……」
向こう岸の桜が川面に映って美しい。
朝の風に吹かれた花びらが、ハラハラと水面に落ちていく。
朝陽が水面に反射して桜を照らしていた。
目の前の光景があまりに美しく神秘的で、私はその場に足を止めてそれを見入ってしまった。
どれくらいその場に足を止めていたのだろう。突然、右手のリードがぐいっと引っ張られた。
「あ、アンジュ……」
右側を見下ろすと、アンジュが「もういいかな?」と言うような瞳で私を見上げている。
「ご、ごめんね。お散歩続けよう」
私がそう言って足を一歩踏み出すと、アンジュも前を向いて歩道を進み始めた。
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