5. 大義名分いただきます。

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 沈黙が二人の間に広がった。  私は頭を下げたまま、瀧沢さんの言葉をじっと待つ。  沈黙の時間が長く感じる。    やっぱり私なんかじゃダメなのかな……。  気持ちが沈みかけたその瞬間、頭に大きくて温かなものが。  ビックリして目線を上げると、今まで見た中で一番優しい微笑みを浮かべた瀧沢さんが、私の頭を撫でていた。    「じゃあ、お言葉に甘えてお願いするね」  そう言いながらも私の頭を撫で続けてニコニコと笑う彼に、みるみる真っ赤になって行く私は、恥ずかしさで固まってしまう。  「杏奈は恥ずかしがり屋だけど、意外と頑固なとこもあるんだな」    と、いまだ私の頭の上に手を乗せたまま、そう言った彼の言葉に心臓がドクンッと波打った。  い、今…なんて…  口がパクパクするけど、声が出せない。  「杏奈、どうしたの?」  そんな私に追い打ちをかけるように、彼はそう言った。  「あ、あ…あんなって…」  「え?名前『宮野杏奈』さんだよね?」  「は、はい…その通りですが、なんで下の名前で…」  真っ赤な顔で驚愕する私のことを見て、やっと彼は私の頭から手を下し、少し姿勢を正してからゆっくりとこう言った。  「短い間だとしても、同じ家に暮らすからには“他人”とじゃ寛げないからね。お互い気兼ねすると疲れるから、手始めに名前で呼び合おう。あと敬語もなしで」  「で、でも…」  「さ、俺のことも名前で呼んでみてよ」  瀧沢さんは「逃さないよ」と言わんばかりにジッと私を見つめてきて、視線を外さない。
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