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「しゅ、しゅ、~~っ、やっぱりダメ…!言えませんっ」
顔を両手で覆って、思いっきり俯いた。
は、恥ずかしすぎる……。
同級生の男の子すら苗字でしか呼んだことのないのに、出会って一日しか経っていない男の人を名前で呼ぶなんて……。
「うん、頑張って。俺もこれは譲れないから」
瀧沢さんの声が、なんとなくちょっと楽しそうな感じ。
もしかして、からかってる…?
少しだけ目線を上げて手の隙間から彼を見ると、少しだけ口の端を上げて笑っていた。
むむむ……なんだかちょっと悔しくなってきた。
私ばっかり振り回されている感じがする。
この家で瀧沢さんのお世話をすると決めたのは自分だ。
腹を括らねば…!
ガタン、と思いっきり椅子を引いて立ち上がった。
「わ、私、職場に電話してきます。お茶ご馳走様でした。後で洗いますので、そのままにしておいてください、しゅっ…修平さん…!」
言い終わると同時に、私はゲストルームへと飛び込んだ。
脱兎のごとくその場から逃げ去った私には、その後の瀧沢さんの呟きは耳に届かなかった。
「くっくっく……、逃げられちゃった。敬語も無し、って言ったんだけどな。まあ今回はいっか。ホント、可愛いな。アンもそう思うだろ?」
頭を撫でられたアンジュは、尻尾を振って小首を傾げながら自分の主を見上げる。
その耳がほんのり赤くなっていたことは、アンジュだけしか知らない。
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