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スマホの時計を見ると、八時半過ぎ。
確か、今日の早番メンバーには千紗子さんが入っていたはずだ。
千紗子さんならもう出勤している時間。そう思って職場に電話をかけた。
案の定、職場の電話に出たのは千紗子さんだった。
遅番の私が、こんな早くに電話にかけてきたことにビックリした千紗子さんは、すぐに異変を察知してくれた。
私は彼女に事の次第を手短に話し、もしかしたら出勤が少し遅れるかもしれないことと、そのことを上司や他の館員に伝えて貰うようにお願いをした。
すると千紗子さんは。
「そういうことなら私が通しで入るから、杏ちゃんは今日は有休にしなさい。館長と課長へは私から伝えておくわ」
少し硬い声でそう言ったあと、千紗子さんは電話口で「はぁー」と息を吐いた。
それからいつものように柔らかい声で、
「一人で大丈夫?アパートの確認とか色々、着いて行ってあげたいのだけど流石に今日は私まで抜けられないから……」
と、心配そうに言う。
千紗子さんの温かい言葉に、張りつめていた気持ちがじわりとほどける。
思わず声が詰まって目に涙が浮かんだ。
「だ、大丈夫です……お休みを、ありがとうございます」
「うん。気にしないで。困ったことがあったら、遠慮しないで何でも言ってね」
「はい、ありがとうございます。また連絡します」
そう交わして通話を終了したあと、目じりに溜まった涙をそっと拭いつつ、心の中で優しい先輩に改めて感謝した。
「……そうだ。実家にも連絡しておかなきゃ……」
自宅アパートの契約は成人している自分の名前でしたけれど、保証人は実家の父になっている。
母ならこの時間に電話に出れるかもと思い、さっそく実家に電話することにした。
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