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ニ階の一番端にある扉の前で足を止める。
本来なら【201 宮野】と書いてあるはずの表札が、焦げ跡でほとんど見えない。
通路や壁はびしょ濡れで、昨夜の懸命な消火の様子を物語っていた。
黒く煤けたドアが目の前にある。
「何を見てもパニックにならない……。自分で頑張るって決めたでしょ」
手の中の鍵をグッと握りしめて、そう自分に言い聞かせた。
鍵を差し込んで回し、ドアをゆっくりと開いた。
「―――!!」
そこは案の定、水浸しだった。
「……ひどい………」
分かってはいたけれど、口に出さずにはいられないほど酷い惨状。
床一面が水に浸かっていて、天井からも水がポタポタと落ちてきていた。
壁は煤で黒ずんでいる。
とても靴を脱いで上がるような状態じゃないので、私はそのまま靴で部屋の中へと進んだ。
あっという間に靴の中までびしょびしょになる。
「あはは、こんなことなら長靴に履き替えれば良かったな」
なんだかショックを通り越して、もう笑うしかない心境だ。
キッチンを通って部屋に入ると、そこもすごい惨状だった。
火災現場に面していて消火が激しかったのか、窓ガラスは割れてベッドの上に落ちているし、もちろんどこもかしこも水浸しか煤だらけ。
お気に入りのランプシェードも、家族旅行の思い出のサンキャッチャーも、あちこち探してやっと決めたカーテンも。
すべてが滅茶苦茶。
「~~~~っ!」
覚悟は決めて来たし、外の状態から正直諦めもついていた。
だけどやっぱりこんな酷い部屋を目の当たりにして、涙が盛り上がって来るのを止められない。
わたしは涙をこぼすまいと我慢して、壁際に備え付けた大きな本棚の前に向かった。
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