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自転車を元の場所にとめて玄関の扉を開ける。
アンジュの足を軽く拭いて、一緒にリビングへと向かった。
「あれ、いない…?」
瀧沢さんに「戻りました」と挨拶しようと思っていたけど、彼はリビングには居なかった。
自室にいるのかな、と思ったが、なんとなくどっと疲れが出て、私も借りている客間に戻ることにした。
客間のドアを閉めて持っていた荷物を降ろす。
気持ちが随分重くなったのは、大半が濡れているこの荷物のせいでかもしれない。
少しふらつきながらベッドへうつ伏せに体を投げ出した。
手足が鉛のように重い。
気持ちも体も、底のない沼に沈んで行くようだった。
***
頬を何かが触れたのがくすぐったくて、首をすくめた。
深い水の中にいるのに、頬に触れる感触で、少しずつ意識が浮上していく。
遠くで低い声がする。
「…ながら寝ちゃたんだ………そうに…」
「せっかく…るから…すこし……しておこうか」
低くて、柔らかい声。
私の知っている男性よりも、少し高めの声をしたあなたはだあれ―――。
ゆっくりと重い瞼を押しあげた。
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