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「ごめん、起こしちゃったかな?」
覚醒しきれない私の耳に、心地良いテナーボイスが届く。
未だ焦点の合わない目を声の方に向けると、ベッドの縁に腰かけた瀧沢さんが。
突然目の前に現れた彼にびっくりして、ベッドに横向きになったまま固まった。
彼はそんな私を心配そうな顔で覗き込んで、髪を梳くように私の頭をひと撫でして。
「勝手に部屋に入ってごめんね。でもアンジュが君の部屋のドアの前で心配そうに座ってるから、ちょっとだけ様子を見に来たんだ」
そう言いながら、自分の隣に目線を送った。
そこには彼と同じように心配そうな瞳で私を見上げるアンジュがいる。
「す、すみません……ご心配おかけしてしまって……」
寝起きの掠れた声でなんとかそう言って、ベッドの上で上体を起こした。
「そんなこと気にしなくていいよ。色々あって疲れてるんだよ、無理しないほうがいい」
「もう大丈夫です。ちょっと眠ってスッキリしました」
「ん。――なら良かった」
瀧沢さんは体を少しずらして、私の方に向いた。
「どうだった……?」
「え?」
私の方に向いた体とは逆に、修平さんは瞼を伏せて足元を見ている。
「言いたくなければ言わなくていいのだけど……つらい事を無理やり聞き出したいわけじゃないから……」
「あ、」
彼の聞きたいことが思い当たった。
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