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「アパートのこと……ですよね?」
そう言うと、彼が頷く。
「言いたくない、わけじゃないんです。瀧沢さんには色々とお世話になってるから、ちゃんと報告しようと思ってて……」
「うん」
「アパートの部屋……全然ダメ…でした」
そう口に出した途端、目にみるみる水が溜まってくるのが分かる。
「部屋の中、全部水浸しでっ…、天井からも水が落ちてて……」
ちゃんと話そうと思うのだけど、部屋の惨状が頭に浮かんできて声が詰まる。
だけどしんみりするのが嫌だったから、無理やり明るい声を出した。
「で、でも、管理人さんに会えて、住人みなさんが無事だって聞けて、ほんとうに良かったって、」
全部言い終わる前に、私の体を瀧沢さんが抱き寄せた。
「ごめん」
壊れ物を守るように、そっと優しく私を包み込んだ彼はそう言った。
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