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「どこまで行くの?」
急にフランクになった彼の口調にびっくりして思わず顔を上げた。
「図書館までなんですが……」
ちらっと自転車を振り返って口ごもる。
すると車のドアが開いて男性が降りてきた。
私に近づいて来た彼の身長はかなり高かった。私が百五十五センチと小さめなのもあるけれど、目の前に立つと顔を思いっきり上げて仰ぎ見ないといけないくらいだから、おそらく百八十センチ以上あるのだと思う。
一つ目のボタンを外した白いワイシャツの上から、ハリのある紺色のジャケットを羽織っていて、その下は長い脚がスラリと伸びている。
オフィスカジュアルなのにどこか洗礼された姿に、思わず見惚れてしまった。
急に近づいて来た彼を見上げてポカンとしていると、彼は私の横を通り過ぎ、車のバックドアを上げてまた戻ってきた。
そして素早く私の自転車を持ち上げ、車に積み込んでしまった。
「えっ?なんで??」
どうしてそうなったか分からない私を、彼はそっと促すように車の方へ誘導する。
「乗って。急いでるんでしょ?図書館まで送るよ」
「え……で、でも私……」
急な出来事にアタフタするだけで何の言葉も出てこない。
知らない男性の車に乗るなんて出来ない。そう言おうと思った時、彼がジャケットの中から一枚のカードを取り出し私に手渡す。
図書館利用者カードだ。
「怪しい者じゃありません。俺は瀧沢修平(たきざわしゅうへい)。今から仕事で図書館の近くに行くところだったんだ。どうせ図書館の前を通るんだし遠慮なく乗って」
毎日幾度となく目にするカードには『瀧沢修平』と書いてある。
「君に預けておくよ。俺はこれがないと必要な資料を借りられなくて仕事に支障をきたす。もしも俺が君にとって不愉快なことをしたら、このカードは返さなくていいから」
何だかよく分からないまま言いくるめられ、気付いたら彼の車の助手席へと座っていた。
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