6103人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は満足そうにニッコリと微笑んだ後、私の手を解放した。
ホッと安堵の息を吐いて起き上がろうとしたその時、私を離したばかりの大きな手が、私の頬に添えられた。
「え?」と思って顔を上げると、さっきまでは楽しそうに笑っていた彼が、キリッとした眉を少し下げて心配そうに私を見下ろしている。
彼は私の頬に添えた手で、私の目元を拭った。
「目、赤くなってる。冷やさないとね」
彼の瞳に映る自分を見つめながら、私は声が出せなかった。
優しい声に、甘さを含んだその声色に、どうしようもなく心が揺さぶられる。
胸がきゅうっと締め付けられて、涙があふれてきそうになるから、それをこぼさないように必死にまばたきをこらえる。
「……杏奈」
ゆっくりと近付いてくるその瞳から、目を逸らすことが出来ない。
耐え切れずキュッと目を閉じた瞬間、ポロリとこぼれそうになった滴を、彼の唇がそっとすくい取った。
その時「ピンポーン」と呼び鈴がリビングの方から聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!