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弾かれたように私が体を離すと、修平さんは少し名残惜しそうにしながら
「ピザ、来たみたいだね。出てくるよ」
と、松葉杖を取ろうとするので、
「わ、私が行きます!」
と慌てて彼の横をすり抜ける。
部屋を出る時、後ろから「杏奈」と呼ばれた。
「は、はい…」
立ち止まって返事はしたけれど、彼の方を向くことが出来ないでいる。
「もうひとつの約束もよろしくね」
「わ、分かりまし、……分かった」
そのまま廊下へ駈け出した。
逃げるように玄関まで走って来て、宅配の人からピザを受け取った瞬間
「あ!お財布!!」
肝心なものを持たずに来たことを思い出して、取りに戻ろうと踵を返そうとしたその時、
肩越しにスッと腕が延びた。その手の先には一枚の黒いカードが挟まれている。
「これでお願いします」
配達の人にそう言ってカードを渡す修平さんの声が私の頭の上からした。
さっきの余韻もあって、また心臓が落ち着かなくなる。
私はピザの箱を落とさないように、箱を持っている手に力を込めた。
「ダイニングテーブルに運んでもらえる?」
そう言って、彼は松葉杖を突きながらゆっくりと奥へ戻って行った。
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