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「コーヒーどうぞ」
片付けが済んだ後、コーヒーを入れてソファーに座る修平さんの所へ持って行った。
「ありがとう。杏奈も座って。一緒に飲もう」
修平さんがそう誘ってくれたので、私は三人がけのソファーの端に腰を下ろした。
修平さんはその長い脚を組み、反対の肘掛けに腕を置いて優雅にコーヒーを飲んでいる。
私は手に持っているカップに口を付けながら、ボーっとその姿を見ていた。
コーヒーを飲んでも絵になるなぁ。
そんな男性と二人っきりで(アンジュもいるけど)ソファーに座ってコーヒーを飲んでいるなんて、昨日の自分に教えてあげたい。
きっと信じないだろうけど。
キッチン、ダイニング、リビングが、庭に面した広いガラス窓に沿うように並んだこの部屋。
西へ傾いた日差しが、部屋の中へ長く届いて暖かく、なんだか居心地もよい。
しばらくの間二人とも口を開くことなく、窓の外の庭を眺めながら静かにコーヒーを飲んだ。
静寂を終わらせたのは修平さんだった。
カチン、と小さな音を鳴らしてソーサーの上に乗せたカップをテーブルの上に置く。
「本、ありがとうね。すごく面白かったよ」
「え?」
「『橘ゆかり』の新刊」
「あっ!もう読まれたんですね!早い!!」
「今日は他に出来ることが無かったからね」
苦笑いしながらそう言って、彼は私のほっぺたをむにゅっとつまんだ。
「ひゅ、ひゅーへいはん!?」
「ほら、また敬語に戻ってる。次、敬語使ったらお仕置きだよ」
つまんだ手を離しながら色気たっぷりに目を細める。
「わか…った…」
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