7. 二人と一匹暮らし、始めました。

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 朝食の後、アンジュの散歩に行き、そのあとすぐに図書館への出勤時間になった。  昨日臨時でお休みを頂いてしまったので、今日は普段より少し早めに出勤することにした。  修平さんに借りている自転車を押しながらアプローチを進んでいると、「いってらっしゃい。気を付けて」と言う声。振り向くと、リビングの横のテラスから修平さんとアンジュが顔を出している。  二人に手を振って自転車を漕ぎ出したわたしの胸は、なんだかほんわりと温かかった。 ***  図書館に着くと、先に来ていた千紗子さんが私に気付いて駆け寄ってきた。  「杏ちゃん!!大丈夫!?」  彼女はそう言うなり、私をぎゅうっと抱きしめた。  「千紗子さん…」  「大変だったよね、私何にも出来なくてごめんなさい」  彼女の柔らかな腕の中で、身も心も温かくなる。  緩みかけた涙腺を引き締めるつもりで、一度瞳を閉じた。  彼女の腕からそっと体を離して「ありがとうございます」と笑って見せた。  「杏ちゃん……」  「お仕事を代わって頂けて本当に助かりました。こうやって千紗子さんが心配してくださるから、私頑張れたんだと思います。いつもありがとうございます」  私が感謝を伝えると、千紗子さんはちょっと瞳を潤ませてから  「私に出来ることがあったら遠慮せずに言ってね」  と優しく背中を撫でてくれたのが嬉しくて、私はいつも以上に元気な声で「はい!」と返事をする。  それから、アパートの住人全員が無事であったことや、火災保険の話を説明したりしているうちに、千紗子さんは思いついたように私に尋ねた。  「それはそうと、昨日はどこに泊まったの?ホテル?」  「え?」  「金曜日の夜だったから、空室が有ったのかちょっと心配してたんだけど……」
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