7. 二人と一匹暮らし、始めました。

5/31
前へ
/271ページ
次へ
 ドキっとした。  心配そうにしている千紗子さんを直視できず、視線をうろうろさせてしまう。     「杏ちゃん?」  「えっと、そ、それは……」  突然挙動不審になった私にピンと来たのか、千紗子さんはスーッと目を細めて「杏ちゃん」と問いただすように私の瞳をジッと見つめる。  「どこに泊まったの?」  刑事が容疑者に「さあ、吐け」と自白を促すのってこんな感じなのかも……。  千紗子さんから目を逸らしながらも、誤魔化しきれないと覚悟を決めて、私はその場所を口にした。    私がその場所を「自白」した瞬間、始業時間となってしまった為、話は一旦お預けとなった。  千紗子さんは大きな瞳を更に大きく開いて、いつもは上品で不必要に開いたりしないその口を、パクパクしながら言葉を無くしていたけど、始業の合図と共に「は~~~」と大きく息を吐き出した。  それ以上は追及することなく、仕事スイッチをオンにしたようだ。  でも朝礼に一歩踏み出す時に、「続きは就業後ね」と私の耳元で囁いた。  
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6099人が本棚に入れています
本棚に追加