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喫茶店の店内に入って二人でコーヒーを頼んだ。
注文したコーヒーが来るまでの間に、私は事の成り行きをなるべく手短に説明した。
「それって、『恩返し』と『住むところの確保』の利害が一致したってことなの?」
「えっと、……そういうことになります、よね?」
私の説明を聞いた千紗子さんは、そう聞いただけで小首を捻りながら黙ってしまった。
やっぱり、良く知らない男性のお宅に居候させてもらうなんて、良くないことだったのかな……。
私は彼女の反応に、自分のこれまでの行動を振り返って不安になってくる。
なんだか身の縮まる思いがしてきて、膝の上で握った手ばかりを見つめていた。
運ばれてきたコーヒーをブラックのまま一口飲んだ千紗子さんは、「う~ん…」と小さく唸った。
「あの、私…」
どうしたら、と言いかけた所で、「杏ちゃん」と千紗子さんの声に顔を上げた。
「杏ちゃんは、瀧沢さんに嫌な思いをさせられたりしてない?」
そう問うた千紗子さんの瞳は真剣そのものだ。
「嫌な思い、なんて、」
「少しでも不安があったり、嫌な思いをすることがあるなら、私のうちに来なさい」
言いかけた私の言葉を遮った彼女の口調はとても厳しい。でも彼女の瞳に私を心配する気配を感じて、私は口を噤んだ。
「もちろん、助けて頂いた瀧沢さんのお役に立ちたいという、杏ちゃんの気持ちも分かるわ?でも彼は男の人なのよ……今は怪我をしているから身動きも取り辛いかもしれない。でもそれも近日中に治まると思うの。そうなったら、杏ちゃん、怖い思いをするようなことになるかもしれない。そんなことになって欲しくないのよ……」
「千紗子さん……」
「私も彼が悪い方だとは思えないし、思いたくないけれど、やっぱりそれでも心配するわ。だって大事な“妹”のことなんですもの」
厳しい口調を少し和らげた千紗子さんにそう言われて、私は黙って考えた。
確かに修平さんは私をからかったりしてくる。
でも、私が本当に嫌がることはどれだけ近付いていても、したことがない。
むしろ、私が困惑したり「無理」と思いそうになると離れて行った。
それに―――。
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