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「千紗子さん、ありがとうございます」
「杏ちゃん…じゃあ、うちに、」
「いえ。私はこのまま瀧沢さんのお宅にいようと思います」
彼女の言葉を遮ってまで、はっきりと宣言した。
「千紗子さんのご心配もごもっともです。でも、瀧沢さんとアンジュは火事のことで泣いている私を何度も励ましてくれました。二人とも私のことを本当に心配してくれてると感じたんです。私はそんな二人を信じたいと思っています。瀧沢さんとアンジュを助けたい、それが今の私の一番の想いなんです」
「杏ちゃん……」
「すみません…私なんかが偉そうに言って…。千紗子さんは私のこと、心配してくれてるのに……」
強気に宣言したものの、千紗子さんの意見を突っぱねることになってしまったことが申し訳なくて彼女から目を逸らした。
すると、千紗子さんの手が、テーブルの上にある私の手をそっと包んだ。
「分かったわ。私は杏ちゃんを信じることにする。杏ちゃんが信じた瀧沢さんのことも信じるわ」
「千紗子さん……」
「でも、もし何か困ったりしたことがあったらその時は遠慮なく私を頼ってね。我が家は部屋も余ってるから、杏ちゃんが来てくれるなら大歓迎よ」
優しい声でそう言ってくれた千紗子さんの笑顔にホッとして、瞼の裏が熱くなる。
「絶対よ、杏ちゃん。もし後で私を頼ってくれなかったのが分かったら……」
「分かったら…?」
悪戯そうに目を細めて、彼女は言った。
「もうお弁当分けてあげないわよ?」
「……それは、困ります。なので、もしもの時はお世話になります」
言いながら下げた私の頭を、「ヨシヨシ」と撫でながら
「ヨロシイ」
と彼女は微笑んだ。
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