7. 二人と一匹暮らし、始めました。

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 笑いが自然と落ち着いた後、修平さんが言った。  「こんなに楽しい夕飯を家で食べるのは久しぶりだな…だれかと一緒に囲む食卓が温かくて楽しいってこと、しばらく忘れてた気がする……」  テーブルに視線を落としながらそう呟く彼の顔がひどく寂しそうに見える。  「このテーブルで一人で食事をとることなんて、すっかり慣れたと思ってたのになぁ……」  誰に聞かせるわけでもない、というふうに呟いた彼の言葉を聞いて、私の胸はギュッと締め付けられた。  彼の瞳が切なそうにどこか遠くを見ている。  向かいの席で、それをただ見つめることしか出来ない自分が、訳もなく苦しい。  私の方を見て!私がここに居るから!!  そう叫びだしたくなった口をギュッと噤んだ。  手に持っているフォークを皿の上にそっと置いて、私は鼻から息を吸い込んだ。  「あのっ、こんなので良かったら毎日作るからっ」  勢いよく言った私に、修平さんは顔を上げた。  「折角だから色んなお料理に挑戦してみるよ。美味しくない時ははっきりまずいって言って!私、結構負けず嫌いみたいだからその方がやる気が湧くし。そのうち修平さんが意地悪できないぐらい、すっごい料理作っちゃうんだから!」  鉄砲のごとく喋り出した私に、修平さんは瞬きを数回した後「ふっ」と息が抜けるように笑って私に訊いた。  「すっごい料理って、たとえばどんな?」  「………、アンティパス……タ、とか?」  「アンティパスタって……ぷっ、……あはははははっ」  突然噴き出した修平さんは、堪えきれないという風にお腹を抱えて笑い出した。完全にツボに入ってしまったようで、彼の笑いはなかなか収まらない。  なんで笑われているのかサッパリ分からない……。  でも、そんなことはどうでも良かった。  あんな顔されるくらいなら、今みたいに笑っていて欲しいな。  彼が笑っているだけで私も何だか嬉しくなってしまう。  しばらくして笑いの落ち着いた修平さんが、目じりに溜まった笑い涙を拭いながら私を見た。  「ありがとう。杏奈」  そう言って幸せそうな顔で破顔した。  
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