7. 二人と一匹暮らし、始めました。

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   「そうそう、上手に出来てますよ。そのまま汁気が無くなるまで炒め煮にします」  「はい」  佐倉さんに教わっているのはひじき煮。今回の常備菜のひとつだ。  佐倉さんは大抵、来る前に買い出しをし、ここのキッチンで日持ちのする常備菜を作ったり、下拵えが必要な食材はすぐに使えるようにしてから冷蔵庫や冷凍庫に保存しておくらしい。  食材は修平さんが前以てメールでお願いするものに加えて、佐倉さんがその日の値段や鮮度を見て買ってくる、とのことだった。  確かに私がこの家に初めて来た時も、冷蔵庫の中は食材とすぐに食べれるおかずで充実していて、それで簡単に夕飯を用意出来たんだっけ。  あの時は緊張しすぎて、何を食べたかほとんど覚えていないけれど。    「次は鯖の味噌煮を作りますね」  「お~!鯖の味噌煮は初めてです」  鯖が丸ごと一尾でお値打ちだったから、と佐倉さんは言いながら冷蔵庫から出してきた。  「今日は私が捌きますから、杏奈さんは見ていて下さいね」  「はい!」  佐倉さんに家事を教えて欲しいとお願いして、渋る彼女をなんとか説き伏せた後、私は彼女に『お客様扱いをやめてほしい』とお願いした。  『ですが、宮野様は顧客である瀧沢様のお客様ですのでそういうわけには……』  『違うんです!私は修平さんのお客様ではありません。ただの居候でお世話係なんです』    『お世話係?』  前のめりになって力説する私に押されながら、佐倉さんは目を白黒させている。  『はい、そうです。実は……』  私はこの家にいる成り行きを簡単に説明した。聞きながら佐倉さんは、途中『まあ!大変!』とか『それは良かったですね』と短い相槌を挟んだけれど、私が話終わるまで流れを遮るようなことは言わなかった。  『というわけで、私は「お客様」なんかじゃなくて、「お世話係」なんです』  『そうでしたか……』  佐倉さんはそう言ったきり考え込むように黙ってしまった。顎に手を当てて視線をあちこちに動かしながら口を噤んでいる。そして彼女の視線が私の足元にいるアンジュへと移った。  アンジュは洗濯干しの時から、嬉しそう尻尾を振りながら私の横にくっついている。  『修平さんが仕事に行っても家に誰かが居るのが嬉しいんだな』と思って、時々撫でてあげたりしていた。  『分かりました。じゃあそのようにしましょう』  『いいんですか!?』  『ええ。でも教えるからには厳しく行きますよ。しっかりついて来れますか?』  『頑張ります!!』  そうして、佐倉さんから私はプロの技を教えてもらえることになったのだ。
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