7. 二人と一匹暮らし、始めました。

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 「鯖は臭みを取るために霜降りにします」  「霜降り?」  「熱湯を回しかけることなんですよ」  佐倉さんは手際よく捌いた鯖の半分に、沸かしておいた熱湯を回しかける。すると鯖の表面が一瞬で白くなった。  「なるほど!」  私は忘れないうちにメモを取る。  「この残りの半分は今から塩をまぶして少し置いてから、水けを拭いて冷凍保存します」  「はい」  彼女は丁寧な説明をしながらも手際はものすごく良くて、どんどん作業が進んでいった。  鰹節と昆布で取った出汁と出汁がら作った佃煮、ひじき煮、サバの味噌煮、の他にも、根菜の煮物、を作ってから極めつけは、トマトの水煮缶でパスタソースまで作っていた。大量に作ったソースの半分は保存袋に入れて冷凍庫行きだ。  そうして教わりながら料理を手伝うこと一時間。  かなりの数の料理が冷蔵庫と冷凍庫に収められた上、キッチンはピカピカに片付け終わっていた。  「す、すごい……」  「ありがとうございます。まぁプロですからね」  佐倉さんは濡れた手を拭きながら慣れた口調でそう言った。  リビングの時計を見ると【11】を指している。  「佐倉さん、お時間はまだありますか?」  「ええ。今日は早めに済んだのでまだ時間に余裕はありますが?」  「じゃあ、良かったら一緒にお茶を飲みませんか?」  私が笑顔でそう聞くと、佐倉さんは瞬きを二三度して、「ふっ」と気の抜けたような息を吐いた後、  「では、お言葉に甘えて」  と微笑んだ。
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