6101人が本棚に入れています
本棚に追加
「コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」
「では、コーヒーをお願いします」
佐倉さんにはダイニングテーブルの所に座って待っていてもらうように言って、私はやかんに火をかける。
コーヒーを入れる器具は、これまでに何度か使ったので勝手は分かっている。
豆を取り出して手動式のミルで引く。豆が削られるゴリゴリという音がリズミカルで、昔からこの音が好きだ。
沸いたやかんを火から下してフィルターにセットした粉の上にそっとかける。待つこと二十秒。コーヒーの良い香りが立ち上る。それから数回に分けてお湯を優しく回しかけた。
「お待たせしました。ミルクとお砂糖、置いておきますね」
「ありがとう。このまま頂くから大丈夫よ。頂ます」
佐倉さんはコーヒーカップの持ち手をつまんで、口の近くまで持っていくとその香りを吸い込んだ。
「いい香り…」
そして一口飲んでから「まあっ!」と言って目を開いた。
「どうですか?」
「すごく美味しいわ!今まで飲んだコーヒーの中でもトップを争うくらいです」
「良かった!」
彼女から貰った今日一番の褒め言葉に、胸の前で手を叩いた。
「どこかで習ったの?こんなに上手にコーヒーを落とせるなんて、プロ並みですよね」
「プロになれるほどではないんですが、コーヒーの淹れ方はプロから教わったんです」
「プロから?」
「はい。父が実家の近所で喫茶店をやっていて、私はその店のお手伝いをしているうちに、コーヒーの淹れ方を教えてもらえるようになったんです」
「なるほど、そういうことだったのですね」
それから私は、幼少期の父との思い出話を佐倉さんに話した。
最初のコメントを投稿しよう!