7. 二人と一匹暮らし、始めました。

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 「コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」  「では、コーヒーをお願いします」  佐倉さんにはダイニングテーブルの所に座って待っていてもらうように言って、私はやかんに火をかける。  コーヒーを入れる器具は、これまでに何度か使ったので勝手は分かっている。  豆を取り出して手動式のミルで引く。豆が削られるゴリゴリという音がリズミカルで、昔からこの音が好きだ。  沸いたやかんを火から下してフィルターにセットした粉の上にそっとかける。待つこと二十秒。コーヒーの良い香りが立ち上る。それから数回に分けてお湯を優しく回しかけた。  「お待たせしました。ミルクとお砂糖、置いておきますね」  「ありがとう。このまま頂くから大丈夫よ。頂ます」  佐倉さんはコーヒーカップの持ち手をつまんで、口の近くまで持っていくとその香りを吸い込んだ。  「いい香り…」  そして一口飲んでから「まあっ!」と言って目を開いた。  「どうですか?」    「すごく美味しいわ!今まで飲んだコーヒーの中でもトップを争うくらいです」  「良かった!」  彼女から貰った今日一番の褒め言葉に、胸の前で手を叩いた。  「どこかで習ったの?こんなに上手にコーヒーを落とせるなんて、プロ並みですよね」  「プロになれるほどではないんですが、コーヒーの淹れ方はプロから教わったんです」  「プロから?」  「はい。父が実家の近所で喫茶店をやっていて、私はその店のお手伝いをしているうちに、コーヒーの淹れ方を教えてもらえるようになったんです」  「なるほど、そういうことだったのですね」    それから私は、幼少期の父との思い出話を佐倉さんに話した。
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