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「ありがとう、修平さん……」
冷静になって考えれば、修平さんを置いて飛び出すなんて、自分でもどうかしていたと思う。
私の両親の前に一人残された彼が気まずい思いをしたに違いない。しかも父はあんな態度だったのに。
本当に申し訳なく思っていたのに、彼はそれすらも『良かった』と言ってくれなんて……。
こんな素敵な人が私の彼氏でいいのかな、と思ってしまう。
感動で潤んだ瞳をこっそりぬぐっていると、修平さんがまたしても驚くようなことを言った。
「たぶん杏奈が飛び出してすぐ、由香梨さんが隆弘さんに言ったことも大きかったのかも」
「お母さんが…?」
「ああ。『娘の彼氏へのヤキモチはカッコ悪いわよ』って。それから『杏奈は恋人が出来ても、あなたへの愛情を減らしたりするような子じゃないわ』って言って、にっこり笑って『あなたには私がいるじゃない。それとも、私だけじゃ不服なのかしら?』――てね」
母は本気で怒る直前、ものすごい笑顔になるのだ。私もあの笑顔を見たあとに震え上がったことは数知れず……。
「それから、『あなたは永遠に杏奈にとって素敵なパパで、私にとっては最高の旦那さまよ』とも言っていたな」
「お母さん……」
あっさりした性格の母が、私のことをそんなふうに言ってくれるなんて、と胸がじんわり熱くなる。
「杏奈はご両親から愛されて大事にされてるんだなあ」
しみじみとそう言う修平さんに、気恥ずかしい気持ちはあったけれど、私は素直な気持ちを口にした。
「うん、本当だね……私、自分で思っていた以上に二人に愛されているんだね……」
「そうだね。さっきも言ったけど、俺もご両親以上に杏奈のことを大事にする。だからずっと俺の側にいてね、杏奈」
まっすぐ前を向いたままの彼の口からそんな甘い言葉が出てくるとは思いもよらず、一瞬にして顔が真っ赤になった。
「ず……、ずっとって………」
「ずっと、だよ。これ以上はまた別の機会に、ちゃんとね」
彼の横顔が微笑んでいる気がしたけれど、そちらを向く勇気はなく、私は赤くなった顔を見られたくなくて、反対の窓の外ばかりを見ていた。
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