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「な……っ!だ、誰だお前は!」
突如として現れた見知らぬ者に、驚くのも無理はない。
合わせていた衣の袖口を解くと、煌は軽く折っていた腰を伸ばしてふっと笑んだ。
「申し遅れました。私は本日よりあなた様の家臣を務めさせていただく者です。煌とお呼び下さい」
嬴政の見開かれていた切れ長の瞳が徐々に細くなっていく。
「そうか……。では煌、早速お前に申し付けることがある」
「何なりとどうぞ」
流石は、重臣であっても臆することのない姿勢をもつ王子だ。
たかが三つしか歳の離れていない、ましてや新入りの家臣となれば、きっと玩具のように使いたい放題にするのだろう。
偉いご身分でなにより……と心の中で皮肉を呟いた次の瞬間、思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「今すぐここから消えろ」
「……は?」
煌は思わず聞き返していた。それが、本来ならば決して許されぬ法度だと分かっていても、聞き返さずにはいられない要望だった。
目の前の、この年端もいかぬ少年は、一体なにを言っているのか。
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