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彼が自分を呂不韋と間違って話しているときも思ったが、一体どこでそのような野蛮な言葉を覚えたのか。
―― 一体、どんな人生を歩んできたんだ……?
驚きのあまり、呆気にとられている煌に、嬴政はその苛立ちを隠すこともせず、更に続けて言い放った。
「今朝、昨日登用してやったばかりの家臣が辞めた!これで十一人目だ!そしてお前で十二人目!明日辞めるくらいなら、今消えろ!」
そう一口に捲し立てると、彼は元来た廊下をドタドタと再び忙しなく戻っていったのだった。
***
明け方着く予定だったはずが、夜明け前に着いてしまった。
小さくため息をつき、煌は一室の戸を押しやった。
「……ただいま戻りました」
「おかえり。早かったな」
もう挨拶が済んだのか?と問いつつ、釣り針を作っている一人の男の前に、煌はなにも答えず腰を下ろした。
「どうした。……何かあったのか?」
王宮へ出かける前と違い、様子がおかしいと思ったのか、男は釣り針へと向けていた顔を上げた。
その右目には黒い眼帯が付けられていて、どこか物々しい印象を受けるが、一方の左目ははっきりと瞳が覗き、穏やかな淡い黒色をしている。
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