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籠はぽつりぽつりと、自分の過去について話し始めた。
「今から八年ほど前だったか……俺は王様――現王様の父君に仕えていた」
「八年前ってことは……嬴政王子様は、まだたったの四つだったんだな……」
煌の言葉に彼は小さく頷く。その細められた瞳は、どこか懐かしげに揺れていた。
***
――八年前
籠は現王の右腕として、彼に仕えていた。家臣に登用されて五年、ただこの国のことだけを思い、今日まで信義を尽くしてきた。そんな籠に、転機が訪れようとしていた。
ある日のこと、朝議を終えて自室へ戻ろうと背を向けた矢先、王に呼び止められた。
「そなたに会わせたい者がいる」
素早く体を前に向け、居住まいを正す。
「はい、王様。それは一体どなたでございましょう……?」
「女官の伽耶だ。この度、私の孫娘として、この王宮に留まることが決まった」
籠は下げていた面をゆっくりと上げた。
真っ直ぐに下ろされた艶やかな長い黒髪に、薄桃色の衣。まさしく王女という可憐な身なりに、思わず息をのむ。
名前までは知らなかったが、彼女のことは以前からよく見かけていたので知っていた。
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