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それを見た王は頬を緩めると、「あぁ、そうであった」と開口する。
「嬴政、今日からそなたの姉となる伽耶だ。挨拶せよ」
少年は、特に慌てることなく居住まいを正し、伽耶に礼をした。
「嬴政と申します。伽耶姉上にご挨拶を」
彼女もふわりと微笑み、腰を折った。
「どうぞよろしくお願い致しますね。嬴政」
籠が、王の孫息子の嬴政と顔を合わせたのは、このときが初めてだったが、今思えば大人でも震え上がってしまいそうな冷ややかな眼差しをしていた。
人はこれほどまでに冷徹な瞳をもつことができるのかと、思わず息をのむ。
ふと、その嬴政の視線がこちらを向き、籠は反射的にだが、ごく自然に視線を自分の足元へと下げた。
そこで、彼への挨拶がまだだったことに気付き、慌てて「嬴政王子様にご挨拶を」と頭を垂れた。
嬴政はなにも言わずに去っていった。
***
「流石の籠でも、嬴政王子様のことは怖かったんだな」
一通り話を聞き終えると、煌はいかにも可笑しげに腹を抱えて笑った。
籠は「笑いすぎだ」と軽く睨みながらも、「可愛げがまるでないと聞いてはいたが、まさかあれほどだとは思わなかった……」と、ため息をつく。
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