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――思い当たる節がないわけではないが……
「また探らせねば……。おい、新入り――」
言いかけて、はたと気付いた。――今朝、丁度彼に仕える予定だった十一人目が辞めてしまったことに。
「はぁ……」
再び小さくため息をつく。
「いいですよ、もう……。私がやります……」
あくびを噛み殺しながら、トボトボと執務室へと向かって行った呂不韋なのであった。
***
――数刻前
「お待ち下さい、王子様!」
引き止める呂不韋を無視し、王子――嬴政は勢いよく廊下の角を曲がった。
「この国は腐っている……!」
そのとき吐いたこの言葉に、丁度すれ違った女官たちから嫌に視線を浴びせられたが、そのようなことは全くもってどうでも良い。
この国を動かしているのは王だ。女官など数多くの民の一派に過ぎない。そのような者たちの存在など、元から気にも留めていない。
「……この国は腐っている」
廊下を曲がった先にある、踊り場へと辿り着いた彼は、再び同じ言葉を呟いた。
「だから変えたいと思っているのに……何故誰も分かってくれぬ……!?」
戦に明け暮れている暇があれば、交易をすれば良い。もっと国を開き、他国を受け入れ、自国の利益を上げるべきだ。
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