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妻に操られるがままの王。それを見て見ぬふりの重臣。
本当にこの国は腐っている。彼らを変えぬ限り、この国はなにも変わらない。
嬴政は、こちらを一心に照らし続ける月を、ふと見上げる。
今宵の月は、どこも欠けていない、憎いほど綺麗な満月だった。
――形が変わっても、お前はいつも私を照らしてくれる……
そのまま暫く月に見入っていると、足音が聞こえてきたので、嬴政ははっと我にかえって背を向ける。
「……呂不韋、やはり先の縁談の話は受けん。分かったな?」
しかし返事はない。
「おい聞いておるのか?返事をしろ!」
やはり返事はない。
「はっ!ついに返事の仕方まで忘れたのか、この阿呆がっ!!」
痺れを切らし、その勢いのままぐるんと後ろを振り返ったが、そこに呂不韋の姿はない。
代わりに一人の少年が立っていた。
烈火の如く赤い短髪に、橙色がかった瞳。そして鳥の羽をかたどった派手な耳飾り。
「お初にお目にかかります。――嬴政王子様」
彼のよそ行きの紫苑の衣が、ふわりと夜風になびいた。
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