囚われたのは、俺の方

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「お兄ちゃんお帰り」 「なんだ起きていたのか?」 「コウタね、車の音で分かったんだよ。すごくない?」 「あぁ、すごいな」 頭をぽんぽんと撫でてやると、満面の笑みを浮かべ、首根っこにむぎゅーと抱き付いてきた。 「お兄ちゃんがいなくて寂しかった」 胸にすりすりと頬を擦り寄せてきた。 「ごめんな」 「お腹すいた」 「すぐに用意するから待ってろ」 「おはようのキスまだだよ」 「ごめんな。コウタが寝ているうちに出掛けたから。昼と夜の分と一緒でいいか?」 「うん、いいよ」 背中に片腕を回し抱き寄せると、コウタの方からキスをねだってきた。 塩対応だったコウタとはまるで別人のようだ。お兄ちゃんとも呼んでくれるし甘えてくれる。ベットの中では思わず泣かせたくなるくらい可愛い姿を見せてくれる。 コウタを横抱きしベットの上にそっと下ろすと、震災から11年目の哀悼番組がブラウン管から流れていた。 「今、どこにいますか?って、お兄ちゃん探してくれたんでしょう。ありがとう」 「兄弟だもの。当たり前だろう」 「それだけ?」 コウタがぞくっとするくらい蠱惑的な笑みを浮かべると両手を大きく広げた。 「そうだな、今日からきみは私の妻になるんだったな」 いつの間にか弟に囚われていたのは俺の方だった。昔は嫉妬に狂い、今は愛欲の海に溺れている。何とも皮肉な話しだ。
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