震災前夜

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「コウタ、何があった。話してほしい」 無視されるのは慣れている。 「コウタ、返事くらい……」 振り返ると、箸を持ったままテーブルに突っ伏して眠っていた。 「飯を食いながら寝るって子どもでもあるまいし。たく、しょうがないな」 起こさないようにそっとにじり寄り、細い肩に手を回した。 体を冷やして風邪でもひいたら大変だ。箸を手から離すとき、伏せられた長い睫毛が目に入って動揺した。 無防備な姿をさらしてくれるのは、気を許してくれた証拠。 嬉しいが、まずいな。 心の中で呟きつつ、そっと横抱きで抱き上げた。思っていたよりも華奢な体は俺の腕のなかにすっぽりと収まった。
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